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 2001年2月★天使のピアノ

 新年になってしばらくエッセイが更新できず、遅くなってしまって(楽しみにしてくださってる方には)大変申し訳ございませんでした。(^^;)
 今世紀もどうぞよろしくお願い致します。

 さて、今回は、私が出会った素晴しいピアノのお話をさせてください。
 私は最近、「滝乃川学園」でのチャペル・コンサートに定期的に参加しています。このチャペルコンサートは、歌やフルート、チェロなどの演奏に加え、学園の皆さんとのハンドベル演奏もあり、いつもあたたかいムードで、私自身とても楽しみにさせていただいている行事です。(演奏会の予定欄参照)

 「滝乃川学園」とは、我が国初の知的障害者施設です。もともとは現在の東京都北区滝野川にありましたが現在は国立市谷保にあります。ここにはとても素敵な聖三一礼拝堂があり、そこで出会ったのが【天使のピアノ】です。
 このピアノは、ドイツ人技術者デーリングの商会が、1884(明治17)年から1889(明治22)年にかけて販売したものの1つで、記録でしか知られていない日本最古級のアップライトピアノだったのです。1996年に発見され、1998年に多くの方々の努力により復元されました。ピアノには燭台が左右についており、演奏者が座った眼前の部分にはとても美しい天使の絵が飾られています。その絵によって、【天使のピアノ】と呼ばれているのでした。
 このピアノの持ち主は、石井筆子さんという、滝乃川学園で、知的障害者の教育や福祉に力をそそがれた女性でした。津田塾大学の創始者として有名な津田梅子さんとも交友があり、二人でアメリカの国際会議へ派遣もされたそうです。彼女は英語だけに及ばず、フランス語、オランダ語に堪能で、またその当時の社交場【鹿鳴館】でもひときわ魅力的な女性として、その存在はベルツ博士(ドイツ医学を日本に伝えた)の日記にも登場しています。
 このピアノは、彼女が最初に結婚した時に注文されたものとのことでした。鹿鳴館時代の貴族令嬢が、一転して知的障害児の教育と福祉に半生を捧げられた経緯については、「天使のピアノ」という本に詳しく書かれています。興味のある方は是非お読みになってみて下さい。
 彼女は敬けんなクリスチャンで、数多くの苦難にもかかわらず「愛の力」でもって子供達のために人生を捧げたのです。筆子さんは、よく一人静かにこのピアノを弾きながら、聖歌を歌っていたそうです。

 彼女の生涯を見つめ続けたピアノが復元され、今も滝乃川学園の礼拝堂にあるのです。ハンマーの機能も、鍵盤の数も、現在のアップライトピアノとは異なっているのですが、現在のいわゆる「いいピアノ」とは違った、とても暖かな音色がします。機能的には、はっきりと「おんぼろ」と表現なさる方もいらっしゃるかもしれません。現に、「三好さんが弾いたら壊れるんじゃないか?」なんて心配して下さった方もいらしたほど.....。(どういう意味でしょう、苦笑)

 私はこのピアノの演奏を通じて、普段は味わうことができない経験をしています。というのも、このピアノを演奏するときには、不思議とおじいちゃんやおばあちゃんと会話をしているような気分になるのです。クラシックの演奏というのは、西洋の音楽だけに、「強い自己主張」が必要なことも多いのですが、「いたわり、慈しむ」気持ちでキーに触れると、広いチャペルの中に、決して強い音量ではないのですが、このピアノの暖かい、懐かしいような音色がしみじみと満ちてゆくのです。 

「ああ、筆子さんの『愛の力』が、このピアノにずっと宿っているんだなあ、
滝乃川学園の生徒をみつめてこられた、その眼差しを音にかえて、いまここにいらっしゃるんだなあ。
.....そのお手伝いに私はここに来させてもらっているんだ.......」

と演奏しながら私は感じました。ピアノは本当に生きている!おばあちゃん(おじいちゃん)ピアノが、私にその大切なことを教えてくれたんだ!と思いました。そしてこのピアノに出会ってからは、初対面のピアノに対しても、今までより会話ができるようになったように思います。どんなピアノでも、まず「よろしくね」から始まって「仲良くしたい、理解し合いたい」という接し方です。人間と一緒ですね。

 そういうことは頭でわかっていたつもりでしたが、実際に感じる時というのは「あっ」という一瞬で体感するものなんだな、と思いました。
 ここに長々と私が書いてしまったことも、文字だと少々くどいのですが(苦笑)、演奏している瞬間に“あっ"と思い、“ぽっ"と心が暖かくなったことにすぎないのです。

 このような貴重な得難い体験ができて、本当にピアノを弾いていてよかった!と思います。今後もいろいろなところで演奏を続けていくと思いますが、"どんな時にもこの思いを忘れずにいよう"と思います。
 私が観念的に考えていたのとは全くスケールの違う「」に触れることのできたピアノのお話でした。

「天使のピアノ 石井筆子の生涯」
文:眞杉 章、写真:藤崎康夫
出版社:ネット武蔵野(042-382-5770)

(天使のピアノの写真も、後日どこかに載せられたらいいなあ、
と思っています。)
写真をupしました。 こちらをクリック!!

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